V.409特許の無効審判の概要や、
W.447特許の概要と無効審判で説明した通り、原告の2つの特許に関する補正では、ともに、ID記録媒体に含まれる情報および照合の対象を、「利用者個人および当該ユーザ機関に関するID情報」から「利用者個人のID」に変更している。この変更により、利用するID情報の範囲は狭められることになったものの、情報処理システムとしては(たとえば、異なるキー構成で、照合や蓄積データのアクセスを行うことになり)別のシステム構成になったと言える。さらに(悪いことに)、そのような別のシステム構成が、出願当初の明細書等には記載されておらず、この補正が無効理由として指摘されるに至っている。
こうした内容の補正は、当時においても、新規事項追加として無効理由になる危険性があるという認識は持ち得たはずである。ではなぜ、そのような危険を冒してまで補正をする必要があったのか?
これについては、2つの仮説が考えられる。1つは、出願時に想定していたシステム構成と、実際に運用することになった自社のシステム構成とが「ズレ」てしまい、それをこの補正により一致させようとしたという説である。もう1つは、他社(ANA)のシステムを排除すべく、ANA@deskを含むように特許権の範囲を調整しようとしたという説である。
(2)−1 自社システムとの「ズレ」を解消するため
たとえば、当初(出願時)は、カード(ID記録媒体)に個人IDとユーザ機関IDを記録させ、システム内では、「個人ID+ユーザ機関ID」を、ユニークな連結キーとして利用するつもりで、その構成を明細書に記載したが、その後、仕様が変更になり、個人IDをシステムでユニークに設定し、個人IDのみを記録したカードをシステムで利用することになった、といった状況が考えられる。あるいは、個人のマイレージカードなどの普及が進み(または見込んで)このカードを利用しようとしたとも考えられる。
個人IDのみを用いる場合、カードとユーザ機関IDの対応関係は、各ユーザ機関の汎用パソコンで航空券の予約申請を行う際に、個人(カード)IDとユーザ機関IDを関連づけて登録しておくことによって、ユーザ機関毎の請求が可能となる。補正を経て成立した409特許、447特許では、ID記録媒体から読み取られ、照合される対象は、個人IDのみとなっている。
また、こうした「ズレ」は、出願〜運用開始の間の仕様変更だけで生じるとは限らない。特許出願のヒアリングの際に意思疎通を欠いた場合や、明細書を記載する担当者が勘違いした場合などにも十分起こりうる。
上記の仮説は、以下の事実によってある程度裏付けられる。
◆409特許に係る無効審判事件(無効2005-80061)の第1回口頭審理調書
陳述の要領(被請求人の陳述)には「・・・ユーザ機関のID情報がなくても利用者個人のID情報だけで個人が特定できる。ID記録媒体はクレジットカードでもJALカードでもよい。」とある。
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JAL ONLINEに関するQ&A
アンサー部分には、JALマイレージバンクへの入会は個人個人で手続きが必要である点、およびJALONLINEへの社員登録については、一括登録・追加登録が可能である点が示されている。
(2)−2 他社システムとの「ズレ」を解消するため
X 訴訟の概要で説明したように、ANA@deskは、個人カードであるANAマイレージカードが使用され、予約申請の時点で、このカードID(ANAマイレージクラブ会員番号)と企業IDがセットで入力される。したがって、JALIは、自社の特許権が、このANA@deskをも含むように、ID記録媒体に含まれる情報および照合の対象を、「利用者個人および当該ユーザ機関に関するID情報」から「利用者個人のID」に変更したのかもしれない。
また、409特許の取得手続きが、ANAとの侵害交渉と並行して行われており、ANAから特許権侵害の恐れがない旨の「回答書」を受け取った(2000年12月)後で、問題の補正を行っている(2001年3月)ことも偶然ではないように思われる。
ただし、上記(1)−1で説明したように、409特許および447特許とANA@deskは、他の点でも大きく相違している。